慣れというのは恐ろしい。いい加減な服ばかりを着ているうちに、そういうものしか似合わなくなる。カラダがそうなってしまうのだ。きちんとした着こなしができないカラダに。パーティーが明日に迫った夜、わたしは娘のワードローブを家捜しにかかった。そして見つけたのは、たった一枚あった、なんでもない白い半袖シャツだった。これだ、これしかない。「なんだ、それでいいの?そんなら早く言ってよね。このシャツ結構気に入っているんだ」それにいつもはいている黒のパンツ。ちょっとよれっとしているけれど、まあ仕方がない。娘はシルバーのチェーンベルトを腰に巻きつけ、いつものゴンパーズのハイカットースニーカーを履くという。夜の会にスニーカーはいやだなあ。交渉の末、一張羅の黒いサンダルと決まった。当日、着てみると白いシャツに里一いパンツ姿は、なかなか悪くなかった。ほれごらん、若いときはシンプルなのが一番よ。あなたの張り切った肌や元気そうな肢体が引き立てられる。少しは学習してくれたかしら。「ぜんつぜん!」あれから三年が過ぎた。いま、娘はカナダの寄宿学校で、制服と部屋着しかいらない暮らしを送っている。日々の勉強が大変で、正直おしやれどころではないらしい。寮の食事で体重は倍増し、森と泉の国の住人らしく、すっかりカントリータッチのひとに変わった。メイクもほとんどしていない。あるとき、あの頃は目のまわり真っ黒だったよね、と言うと、「あれはブソウ」と二言、答えた。自信のなさや不安感をメイクやどくろ柄で隠そうとしていたのだろうか。ちょっとコワくて強いひとに見られたかったのだろうか。彼女なりに乗り越えてきたものは、確かにあるのだろう。どくろ体質がまだどこかに残っていたとしても、いまはうかがい知ることはできない。この先どんなおしゃれをしていくのか、もう娘はわたしの手の届くところにはいない。街で見かける若い娘たちに、心の中で語りかける。好きなものを好きなように愉しみなさい。自由を満喫していいのよ。でもときどきは、自分を見つめて気がついてね。輝く若さを飾り立てないおしゃれで包むよさも、必ずあるということに。